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「鉄欠乏性貧血」は、貧血の原因の中で最も多いタイプです。当院で治療中の貧血患者さんの多くも鉄欠乏性貧血です。月経のある女性に特に多くみられ、動悸、息切れ、疲れやすさ、頭痛、めまいなどの原因になります。貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態で、原因は鉄欠乏以外にも、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、亜鉛欠乏、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群なども知られています。
鉄欠乏性貧血はどう診断する?
一般的には、
- ヘモグロビン濃度の低下
- 小球性貧血(赤血球が小さい)
- 血清フェリチン低下
などを組み合わせて診断します。特にフェリチンは「体内の貯蔵鉄」を反映する重要な指標で、鉄欠乏性貧血の診断に非常に重要な値です。
治療の基本は「飲み薬の鉄剤」
鉄欠乏性貧血は、名前の通り、鉄分が不足していることから、治療においては不足した鉄を補充します。治療の第一選択は、原則として「経口鉄剤(飲み薬)」です。飲み薬を飲むと、比較的速やかに ヘモグロビン濃度が正常化しますが、ヘモグロビン濃度が正常化しても体内の貯蔵鉄は不足していることが多いため、フェリチンが十分改善するまで数か月程度継続することが推奨されています。また、鉄欠乏の原因、例えば、出血や吸収不良などを治療と並行して調べることも重要です。
飲み薬の鉄剤で多い「胃のむかつき」
経口鉄剤では、
- 胃のむかつき
- 吐き気
- 腹痛
- 便秘
- 下痢
などの消化器症状が問題になることがあります。
こうした副作用は開始初期に目立つことが多いのですが、
- 少量から始める
- 夕食後や就寝前に飲む
- 隔日投与(1日おき)
- 製剤を変更する
などの工夫で、多くの方は飲み薬の治療を継続することが可能です。一方で、どうしても飲み薬の鉄剤が合わない方もいらっしゃいます。
「点滴の鉄剤」が必要になるのはどんな時?
飲み薬が使えない場合には、「点滴の鉄剤」を検討します。
主な適応は、
- 消化器症状が強く内服できない
- 炎症性腸疾患などで内服が難しい
- 胃切除後など吸収障害がある
- 出血が多く、早急な鉄補充が必要
- 飲み薬を続けても改善しない
といったケースです。
点滴の鉄剤は、鉄を直接血液中に補充できるため、経口薬より速やかな改善が期待できます。また、飲み薬で問題となる消化器症状は通常起こりません。
一方で、「点滴の鉄剤」には注意点もある
点滴の鉄剤は有効な治療方法ですが、「点滴だと、むかつかないから楽」という単純なものではありません。
以下のような注意点もあります。
1.アレルギー反応・アナフィラキシー
頻度は高くありませんが、重いアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こることがあります。
そのため、初回投与時を中心に慎重な観察が必要です。
2.鉄過剰
飲み薬では腸管が吸収量をある程度調節しますが、静注では投与した鉄が直接体内に入ります。
必要量を超えて投与すると鉄過剰のリスクがあります。
3.血管外漏出による皮膚色素沈着
点滴中に薬液が血管外へ漏れると、皮膚が褐色に色素沈着することがあります。場合によっては長期間残るため注意が必要です。
4.低リン血症
近年、一部の静注鉄剤で「低リン血症」が問題になることが知られています。重症化すると骨軟化症の原因になることもあり、長期使用では血液検査による確認が重要です。
「とりあえず点滴」は勧められない理由
点滴の鉄剤を使用する際には、事前に「不足している鉄の量」を計算し、必要量を計画的に補充することが重要です。というのも、経口鉄剤ではフェリチン値を見ながら治療終了を判断できますが、点滴の鉄剤では投与後にフェリチンが急上昇するため、短期的には評価が難しくなり、治療終了の指標に使えません。そのため、添付文書や計算式を参考に鉄分の総投与量を決定したうえで治療を行います。 また、「毎月なんとなく1本点滴する」といった漫然投与は、鉄過剰のリスクがあり推奨されません。
まとめ
鉄欠乏性貧血の治療は、まず飲み薬の鉄剤が基本です。
一方で、点滴の鉄剤は、
- 内服できない
- 吸収障害がある
- 迅速な補充が必要
といった場合には非常に有効な選択肢になります。
ただし、
- アナフィラキシー
- 鉄過剰
- 色素沈着
- 低リン血症
など特有の注意点もあるため、「手軽な点滴治療」として安易に使うべきものではありません。
適切な診断と投与計画のもとで、必要な患者さんに適切に使用することが大切です。
鉄欠乏性貧血でお困りの方は当院へご相談ください。
当院では、血液専門医が患者さんの状態に合わせた貧血治療を行っております。
貧血でお困りの方はお気軽に当院までご相談ください。



