貧血
貧血
貧血とは「血液中のヘモグロビン濃度が低くなった状態」のことです。ヘモグロビンは血液中の赤血球の主要な成分で、肺で取り入れた酸素を全身に運ぶ役割を担っています。ヘモグロビンが不足すると体内の組織や臓器が必要な酸素を十分に受け取ることができなくなるため様々な症状が出現します。貧血には様々な原因があり治療法も異なりますので、どのタイプの貧血なのか慎重に判断します。
倦怠感、動悸・息切れ、めまい、頭痛、顔が青白い、集中力の低下、心雑音、浮腫みなどの症状があらわれます。ゆっくりと貧血が進行するような場合では、重度の貧血になるまで自覚症状がない方もおられ健康診断などで偶然見つかる場合もあります。
鉄欠乏性貧血は鉄分の不足が原因で起こる貧血です。貧血の中では最もよくあるタイプであり、日本の成人女性の約1割がこの病気であるといわれています。鉄分が不足する原因としては、胃や十二指腸の潰瘍・炎症、痔、がんなどによる消化管からの出血、月経や婦人科疾患による出血、偏食による鉄分の摂取不足、鉄吸収を妨げる薬物などによる吸収障害などが知られています。症状としては体動時の動悸、息切れ、耳鳴り、めまい、頭重感、集中力の低下などがあります。治療は薬(鉄剤)で鉄分を補うことですが、背景にがんなど重篤な疾患が隠れている場合があるため、鉄分が不足した原因をきちんと調べることが重要です。
貧血の中にはビタミンB12欠乏により発症するものもあります。ビタミンB12が不足すると赤血球の赤ちゃんである赤芽球が巨大化、貧血となるため巨赤芽球性貧血ともいいます。また、ビタミンB12以外にも葉酸が不足した場合も同様の貧血となります。ビタミンB12が欠乏する要因としては、悪性貧血(自己免疫の異常から生じる胃粘膜の病気)や極端な菜食主義、胃・小腸の切除後などが知られています。症状としては鉄欠乏性貧血と同様の貧血症状のほか、食欲不振、吐き気、下痢などの消化器症状、味覚障害や舌の感覚異常、精神症状、白髪などがみられます。治療は不足しているビタミンB12の補充が中心となります。
血管の中を流れる赤血球が何らかの原因で破壊される(溶血)ことで貧血を生じる病気です。赤血球や赤血球の主要な成分であるヘモグロビン自体の先天的な異常によって生じるケースもあります。溶血が起きる原因・機序は様々で、温式自己免疫性溶血性貧血や発作性ヘモグロビン尿症などに分けられます。症状としては貧血に伴う息切れやふらつきのほか、眼球が黄色くなったり(黄疸)、胆石、褐色尿などの症状が出現する場合もあります。
血液細胞の工場である骨髄中の造血幹細胞と呼ばれる血液細胞の種が減少することで、白血球、赤血球、血小板といった血液細胞がつくられなくなる病気です。貧血という名前がついていますが、多くは赤血球以外の細胞、すなわち白血球や血小板も減少し全ての血液細胞が減った状態(汎血球減少)を呈します。再生不良性貧血の症状は、どの血液細胞がどれぐらい減っているのかにより様々です。例えば、白血球が減少すると、免疫力が低下し肺炎などの感染症にかかりやすくなります。また、赤血球の減少により体動時の動悸、息切れ、疲れやすさ、頭重感などの貧血症状が現れたり、血小板の減少による易出血性(アザができやすい)や鼻出血、歯肉出血などの出血症状が出てきます。免疫抑制療法や造血幹細胞移植などの治療が行われます。
私たちの身体の中には多数の微量元素が存在し、特に、鉄や亜鉛、銅は多くのたんぱく質や酵素の成分や働きに重要な働きを持っています。鉄が不足すれば鉄欠乏性貧血となりますが、実は、亜鉛や銅も不足すると貧血になる場合があります。いずれも貧血の原因としては稀で、まだ、明らかになっていない部分も多くありますが、貧血の原因が分からない場合や改善しない場合には、亜鉛や銅が不足していないか確認する場合もあります。
腎臓が悪くなると高頻度に貧血を合併します。これを腎性貧血といいます。腎性貧血の主な原因は、腎臓が作っているエリスロポエチンというホルモンが減少するためですが、ほかにも複数の要因が関係しているとされます。エリスロポエチンは骨髄での赤血球造血を刺激しており、このホルモンが出てこなくなってしまうと、赤血球が十分に作られずに貧血となります。