腎臓が悪くなると高頻度に貧血を合併します。これを腎性貧血と言います。今回は、腎臓が悪くなるとどうして貧血になるのか診断や治療も併せて解説します。
慢性腎臓病(CKD)とは?
慢性腎臓病CKDは「タンパク尿などの腎障害の存在、もしくはeGFR60ml/min/1.73㎡未満の低下が3か月以上続くもの」によって診断されます。CKDの原因は、糖尿病性人証や腎硬化症など生活習慣病や加齢を背景にするものが多数を占めています。
慢性腎臓病では高頻度に貧血を合併する
CKDでは高頻度に貧血を合併します。貧血を合併すると運動耐用能が悪化しQOLを低下させます。腎臓は血液中の老廃物をこしとって尿にする枠割とエリスロポエチンという赤血球造血に必要なサイトカインを分泌する役割があります。腎臓が悪くなると貧血に見合った十分なエリスロポエチンが産生されず、骨髄の中の赤血球ももとになる細胞の増殖や成熟が抑制され貧血となります。
腎性貧血の複雑な発症機序
腎性貧血の原因としてエリスロポエチン産生能力の低下は先ほど解説した通りですが実際はもっと複合的です。尿毒症物質により赤血球寿命が短くなっていたり、骨髄での赤血球造血能が低下していたり、鉄の利用障害などが複雑に関与し腎性貧血を発症します。
腎性貧血の診断
腎機能障害が見られヘモグロビン濃度(Hb)の低下があれば腎性貧血を疑います。腎性貧血は、通常、正球性正色素性貧血を呈し網状赤血球の相対的低下を認め他の血液細胞(白血球や血小板数)は正常です。血清エリスロポエチン(EPO)濃度を測定し貧血に見あった上昇がなければ(貧血があるのにエリスロポエチンが増加していなければ)腎性貧血と考えます。万が一、EPO濃度が異常に高い場合には、腎性貧血よりは再生不良性貧血や骨髄異形成症候群のような骨髄不全を考える必要があります。腎性貧血の診断は除外診断的要素もあり、他に貧血をきたすような原因がないか調べることも重要です。
腎性貧血の治療
成人保存期CKD患者ではHb10g/dl未満を治療開始時期としHb10-13g/dlを目標とします。ただ、基準は絶対的なものではなく、年齢や心血管合併症などを考慮して判断します。現在、腎性貧血に対して使用できる薬剤は2種類です。赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)と低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬です。ESA製剤は不足しているエリスロポエチンの分泌を補い赤血球のもとになる細胞を刺激することで貧血を改善します。一方、HIF-PH阻害薬は患者の体内でEPO産生を高める作用や腸管からの鉄の吸収や体内での鉄利用を促進し貧血を改善します。使い分けに関してはESA製剤は注射薬でHIF-PH阻害薬は飲み薬という違いがありますので、患者さんの状態や好み、ライフスタイル、通院スケジュール、アドヒアランスなどを考慮し総合的に判断します。ちなみに2剤の同時使用は行いません。HIF-PH阻害薬を使用する際の注意点として、事前に悪性腫瘍や網膜病変の合併がないか確認します。また、虚血性心疾患、脳血管障害や末梢血管病を合併する患者では血栓塞栓症のリスクを評価したうえで適応の可否を慎重に判断します。また、鉄欠乏を合併しているとESA製剤やHIF-PH阻害薬の効きが悪くなるため鉄補充を行うこともあります。鉄剤の開始基準は概ね血清フェリチン値100ug/L未満またはTSAT20%未満です。貧血が高度であれば組織低酸素のため左心不全や心肥大のリスクが増大し生活の質が低下しますが、一方でHb値をあげすぎると心血管合併症や脳梗塞のリスクが増加し死亡率はむしろ上昇してしまいます。特に1か月で2g/dl以上のHb値の上昇はリスクがあり、徐々に貧血を改善させていくことが望ましいです。