スポーツと貧血|おおば内科クリニック|京都市下京区の内科・血液内科

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スポーツと貧血

スポーツと貧血|おおば内科クリニック|京都市下京区の内科・血液内科

10月14日は「スポーツの日」です。

健康気運の高まりから、最近は、日常生活にスポーツを取り入れている方も多くおられるでしょう。

市民マラソン大会も全国各地で開催されています。

運動習慣は健康な生活を維持するために大切ですが、アスリートや日常的に強度の高い運動をされる方は、スポーツ貧血に注意が必要です。

今回は、そんな「スポーツ貧血」に関するお話です。

スポーツ貧血とは

「貧血」とは血液中のヘモグロビン濃度や赤血球が減少した状態です。中でも運動が原因で生じる貧血を「スポーツ貧血」と言います。ヘモグロビンは肺で取り入れた酸素を全身に運搬する役割がありますので、ヘモグロビンが減少すると当然、酸素運搬能力が低下します。ゆえに、アスリートがスポーツ貧血になると、特に持久系の競技でのパフォーマンスに大きな影響が出てしまいます。アスリートの貧血の頻度自体は、一般人とほぼ変わらないとも言われますが、その原因にはアスリート特有のものもあります。

スポーツ貧血の原因

スポーツ貧血の原因には以下のように大きく5つあげられます。 

【鉄分需要の増加】

成長や筋肉量増大、運動量の増加

【鉄分の摂取不足・吸収低下】

栄養摂取不足、消化管での鉄吸収低下

【鉄分喪失の増加】

汗からの喪失
消化管出血や血尿、皮下出血
女性アスリートでは月経

【溶血】

足底(足の裏)への強い衝撃による赤血球破砕
筋肉の強い収縮による溶血

【その他】

アスリートは鉄の需要が多い

スポーツ貧血の主な原因は「鉄欠乏」(+「溶血」)です。ただ、上述のとおり鉄欠乏の原因は多岐にわたっており、幾つもの原因が複合的に関与していることも多く、実際には詳細な原因まで特定することは難しいのが実情です。

鉄欠乏においては、成長や筋肉量増大による鉄需要の増加が最も重要です。報告により様々ですが、人間の体内には男性で約4g、女性で約2.5gの鉄が存在し、そのうちの約65%が赤血球中のヘモグロビン、約10%が筋肉中のミオグロビンに含まるとされています。つまり、体内の鉄のかなりの量が血液と筋肉中に含まれていることになります。したがって、特に成長期においては、体が大きくなるのに伴い血液量や筋肉量も増加するため、必然的に鉄の必要量が増加することは想像に難くありません。成長期のアスリートはただでさえ成長に必要な鉄分が多い時期なのに加え、スポーツ活動が活発になり練習量も増えるので非常に鉄欠乏に陥りやすいといえます。

需要の増加以外の原因としては、最近「ヘプシジン」というホルモンが注目されています。ヘプシジンは、消化管からの鉄吸収やマクロファージからの鉄放出(体内での鉄リサイクル)を抑制し、体内で利用できる鉄の量を減らすホルモンです。程度にもよりますが運動を行うと、炎症性サイトカインのIL-6が産生され、その結果ヘプシジンが増加するという説が有力視されています。ヘプシジンが上昇すると、鉄の吸収やリサイクルが遮断され体内で利用できる鉄が減ってしまいます。

それ以外にも発汗による鉄の消失、運動中の消化管からの微小出血などが鉄喪失の原因になることもあります。

足の裏への繰り返す衝撃で溶血

スポーツ貧血の鉄欠乏以外の原因として、「溶血」があります。溶血とは赤血球が壊れてしまうことですが、運動で足の裏に繰り返し強い衝撃あると、物理的に赤血球がつぶれてしまいます。陸上やサッカー、バレーボール、バスケットボール、剣道などの足の裏に繰り返す衝撃が加わりやすい競技の選手で、見られることがあります。程度にもよりますが、強い溶血が起こっている場合は、足の裏に強い衝撃が加わっている原因、例えばフォームに問題はないか、シューズが合っているか、などを検討します。

「パフォーマンスの低下」や「記録の伸び悩み」もスポーツ貧血が原因!?

スポーツ貧血と他の貧血で基本的な症状の違いはなく、スポーツ貧血でも息切れ、動悸、めまい、倦怠感、易疲労性、頭重感などが貧血を疑う症状となります。また、スポーツ貧血で忘れてはいけないのは、運動中の全身への酸素供給が低下による「パフォーマンスの低下」や「記録の伸び悩み」もスポーツ貧血を疑う十分な根拠になります。一方、アスリートにおいては、高い心肺機能や運動能力によって逆に貧血症状がマスクされてしまうこともあり注意が必要です。アスリートや激しいスポーツをされる方は定期的な内科的メディカルチェックを受けることを検討されても良いでしょう。

スポーツ貧血の診断

スポーツ貧血の原因の9割は「鉄欠乏」であり、基本的には、貧血、特に鉄欠乏性貧血と同様の方法で診断します。ただ、酸素需要の多いアスリートと一般の方とで同じ診断基準を用いるのは少し無理があります。ですが、スポーツ貧血においては、ガイドライン等で示された基準はなく、文献によって適正なヘモグロビン量やフェリチン値もばらつきがあります。おおむね男性アスリートでヘモグロビン14.0g/dL、フェリチン30~40ng/dl、女性アスリートでヘモグロビン13g/dL、20~30ng/dlを基準にされることが多いようですが、絶対的なものではなく症状、パフォーマンス低下の有無や程度も合わせて総合的に判断します。ヘモグロビンは正常範囲内にあるものの、フェリチンのみ低下しているケースもしばしばみられます。「貧血を伴わない(貧血に至っていない)鉄欠乏症」ということになります。いわゆる、「隠れ貧血:潜在性鉄欠乏状態」です。フェリチンが低下しているということは、体内の鉄倉庫がすっからかんの状態を意味し、もしそのままの状態が持続すればいずれはヘモグロビンも低下し貧血に至る可能性があります。ヘモグロビンが正常だからといって油断せず、適切にフォローする必要があります。

スポーツ貧血以外の原因除外も忘れずに

アスリートにおいて鉄欠乏性貧血を認めた場合、多くはスポーツ貧血の可能性が非常に高いです。ただし年齢が上がるほど鉄欠乏性貧血を来し得る内科疾患が存在するリスクも上昇してきます。鉄欠乏の原因が、消化管出血や婦人科疾患などスポーツ以外にないのか常に注意しておく必要があります。鉄欠乏性貧血においては、治療と同じぐらい鉄欠乏の原因検索が重要なことは、これまでのコラムでの述べた通りです。健康気運の高まりから最近では、ご高齢の市民ランナーやスポーツマンの方もたくさんいらっしゃいます。本当にスポーツ以外に原因がないのか、慎重にみていく必要があります。

まとめ

今回は以上です。スポーツ貧血を一言でいえば「アスリートの鉄欠乏性貧血」です。「鉄欠乏性貧血」といっても、一般の方の鉄欠乏性貧血とは主要な原因や診断・治療の目標などが微妙に異なっています。アスリートや強度の高い運動をしている方以外でも、日々の生活にスポーツを安全に継続していただくために、定期的なメディカルチェックを受けてみてはいかがでしょうか。