「溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)」というタイプの貧血があります。文字通り、血(赤血球)が溶ける=壊れることにより生じる貧血で、その原因により細かく分類されます。貧血の中では比較的稀なタイプで聞いたことが無い方も多いと思われますが、アスリートや激しい運動を行う方がなりやすい「スポーツ貧血」の一部は溶血性貧血に含まれます。今回は、溶血性貧血の特徴や診断、治療について解説します。
溶血性貧血はどのような貧血なの?
溶血とは赤血球の膜が破れて(壊れて)中のヘモグロビンなどの成分が外に漏れだすことを言います。何らかの原因により溶血が起きてしまい貧血になってしまうのが溶血性貧血です。
溶血性貧血の患者さんはどれぐらいいるの?
少し古いデータにはなりますが、1998年(平成10年)度の特発性造血障害に関する調査研究班による調査では、日本の推計溶血性貧血受療患者数は2600人でした。
溶血性貧血は貧血の中では比較的稀なタイプです。
どうして赤血球が壊されてしまうの?
赤血球が破壊される原因は大きく以下の3つに分けられます。
・赤血球に物理的に強い衝撃が加わる
・赤血球が暴走した免疫により破壊される
・赤血球に構造上の問題があり破壊される
・赤血球に強い衝撃が加わり壊れてしまう
赤血球に強い衝撃が加わり壊れてしまうタイプで、具体的には激しい運動(スポーツ)によるものが知られています。特に、足の裏に強い衝撃がかかり続けるようなスポーツで起こりやすく、足の裏を地面に長く打ち付けると、足裏の血管が圧迫されて赤血球が壊されてしまいます。赤血球が踏みつけられて壊れてしまうイメージです。マラソンやサッカー、剣道などでおこりやすいといわれています。また、心臓に人工弁が入っている場合でも起こることがあります。
・暴走した免疫システムにより赤血球が破壊される
本来、免疫システムは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物(自分以外のもの)を攻撃し自分の身体を守る機構ですが、何らかの原因で赤血球が異物と誤って認識されたのち抗体(自己抗体)が作られ免疫システムにより破壊されてしまいます。自分の免疫により溶血が起こる貧血という意味で自己免疫性溶血性貧血(AIHA)といいます。後天性溶血性貧血の多くを占めます。背景に感染症や膠原病、悪性腫瘍といった別の病気が隠れている場合もありますが、このような基礎疾患がない原因不明の場合も見られます。自己免疫性溶血性貧血は自己抗体の種類により温式自己免疫性溶血性貧血、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、寒冷凝集素症に分けられます。
・赤血球の構造上の問題により壊れてしまう
血液の中には補体という成分があります。補体も免疫システムを構成するたんぱく質で、武器で例えるなら爆弾みたいなものです。本来、赤血球には補体から身を守る成分を持っていますが、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)という病気は、この補体から身を守る成分(具体的にはCD55とCD59)がないため溶血が起こり貧血となります。典型例では朝起きたときのおしっこがコーラ色になりますが、これは夜間就寝中に血管内溶血が起こり尿内に大量のヘモグロビンが出てしまうことによります。発作性夜間ヘモグロビン尿症という名前もここからきています。他、遺伝性球状赤血球症やサラセミア、赤血球酵素の異常などの原因があります。
溶血性貧血の症状
動悸や息切れなど様々なタイプの貧血に共通する症状が出現します。また、黄疸(皮膚の色や白目が黄色になる)、おしっこの色が褐色に変化するなどの症状がみられます。
溶血性貧血の診断
溶血性貧血の診断は、まずは溶血性貧血であるかどうかの確認、溶血性貧血ならさらに詳しい検査でどのタイプの溶血性貧血か調べるという二段構えです。厚生労働省の特発性造血障害に関する調査研究班が2022年度に改定した診断基準がありますので以下に示します
溶血性貧血の診断基準 厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班(2022年度改訂)
下記の1と2を満たし、3を除外したもの。
1.臨床所見 貧血と黄疸を認める。
2.検査所見 以下6項目のうち4項目以上認める。
1)へモグロビン濃度低下
2)網赤血球増加
3)血清間接ビリルビン値上昇
4)尿中・便中ウロビリン体増加
5)血清ハプトグロビン値低下
6)骨髄赤芽球増加
3.鑑別疾患 巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、先天性赤血球形成異常性貧血(congenital dyserythropoietic anemia)、肝胆道疾患、体質性黄疸。
症状のところでも書きましたが、まず貧血と黄疸の有無を確認します。そのうえで、溶血性貧血では、骨髄での赤血球の産生に問題はありませんから貧血に応じて骨髄の赤血球生産が亢進し、幼若な赤血球である網赤血球や骨髄中の赤芽球が増加します。赤血球が壊されると中の成分であるヘモグロビンなどが漏れ出すことを反映し間接ビリルビン増加、ハプトグロビン(漏れ出たヘモグロビンを回収する蛋白)が使われて低下、LDH上昇などがみられます。そして、溶血性貧血と似たような症状やデータを認める他の病気ではないことを確認します。溶血性貧血と確認されれば、直接Coombs検査やフローサイトメトリー検査などを行い、どのタイプの溶血性貧血か判断します。
溶血性貧血の治療
当然ですが原因により治療は異なります。例えば、スポーツ貧血の場合は、クッション性の良いシューズへの変更が有効な場合もあるでしょう。温式自己免疫性溶血性貧血であればステロイドホルモン等を使用し免疫の過剰応答を抑えます。また、発作性夜間ヘモグロビン尿症で補体をおさえる抗体製剤を使用することもあります。