目次
鉄欠乏性貧血は体内の鉄分不足で引き起こされる貧血の一種です。妊婦や成長期の子供、月経のある女性に頻繁に見られます。鉄分は赤血球の中のヘモグロビン合成に不可欠な成分で、その不足が続くと体の様々な機能に影響を及ぼします。本記事では、鉄欠乏性貧血の症状や原因、診断方法、効果的な治療法について詳しく解説します。さらに、日常生活での予防方法や注意点についても触れます。
鉄欠乏性貧血とは?
改めて鉄欠乏性貧血とは鉄分不足が原因の貧血のことです。貧血といえば鉄分不足を思い浮かべる方も多くいらっしゃると思います。実際、貧血の原因の中でもメジャーなものです。鉄分は赤血球の中のヘモグロビンの重要な材料のため、不足するとヘモグロビンを十分に合成することができません。ヘモグロビンは肺で取り入れた酸素を全身に運ぶ役割があります。したがって貧血になると酸素運搬能力が低下し様々な症状が出現します。鉄分が不足する原因としては、摂取不足、慢性出血、需要の増大、吸収障害などがあげられます。
鉄欠乏性貧血の主な原因は慢性的な出血
鉄欠乏性貧血の原因は鉄分不足です。鉄分が不足する原因は多岐にわたりますが、例として以下のようなものがあります。時に命に係わる病気が隠れている場合もあり注意が必要です。
慢性的な出血
血液の中には多くの鉄分が含まれます。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、消化器がん、過多月経などでは慢性的に血液を失うことにより体内の鉄が徐々に減少します。鉄欠乏の原因の多くは月経をはじめとした慢性的な出血です。
需要の増大
妊娠や授乳期、成長期の子供、アスリートなどにおいては体内の鉄の必要量が増加しています。特に妊娠中は胎児の成長に伴い、母体の鉄需要が大幅に増加します。供給量以上に必要量が増加した場合、鉄分が徐々に不足します。
摂取不足
鉄分を含む食品を十分に摂取しない場合、鉄欠乏性貧血を引き起こす可能性があります。
吸収障害
鉄分は摂取しているが体内に吸収できない状態です。自己免疫性萎縮性胃炎、ヘリコバクター・ピロリ感染、胃切除後、胃酸を強力に抑える薬を長期に服用しているなどの場合、鉄分の吸収が妨げられ貧血になることがあります。
鉄欠乏性貧血の症状は?
鉄欠乏性貧血の症状は多岐にわたりますが、一般的なものとして以下のような症状が挙げられます。鉄分はヘモグロビンの材料として重要ですが、体内では他にも様々な働きがあるため、貧血の症状に加えて鉄分不足そのものによる症状も出現します。
疲労感
酸素運搬能力の低下により疲れやすくなります。
動悸・息切れ
貧血になると血液が運搬できる酸素量が低下します。一方で貧血になっても身体が必要とする酸素の量は都合よく減りませんので、心臓が頑張って働くことでこれを補います。結果、動悸や息切れが生じます。また、心臓の頑張りにも限界があります。貧血の状態が続くと、いずれ心臓が疲れてきて心不全の状態(高拍出性心不全)になってしまいます。貧血は放置せず適切に対処することが大切です。
皮膚や粘膜の蒼白
血液中の酸素が不足することで、皮膚や粘膜の色が薄くなります。顔色が青白く見える原因となります。
異食症
鉄欠乏により、氷食症など食べ物でないものを食べたくなる症状が見られることがあります。
鉄欠乏性貧血の診断基準と検査
鉄欠乏性貧血の診断基準
日本鉄バイオサイエンス学会では以下のような診断基準を示しています。
ヘモグロビン濃度:12g/dl未満
TIBC(総鉄結合能):360μg/dl以上
血清フェリチン値12ng/ml未満
したがって、鉄欠乏性貧血と診断するには、少なくともヘモグロビン濃度、TIBC、血清フェリチン値の3つを測定する必要があります。
これらは血液検査で測定できます。もう少し詳しく見てみましょう。
血液中のヘモグロビン濃度の低下
貧血の定義は血液中のヘモグロビン値が低下していることです。WHOの基準では成人男性13g/dl未満、成人女性・小児12g/dl未満、妊婦・幼児は11g/dl未満とされています。日本鉄バイオサイエンス学会の鉄欠乏性貧血診断基準ではヘモグロビン濃度12g/dl未満が基準ですので、だいたい11g/dlよりも下がってくれば貧血と理解しておけば良いでしょう。
血清鉄の低下
鉄欠乏性貧血は鉄分が不足しているため通常は血中の鉄濃度は低下しますが、実は鉄欠乏性貧血の診断基準には含まれていません。後述するフェリチンとともに評価することが大切です。
血清フェリチン値の低下
フェリチンは体内の鉄の貯蔵量を示す指標です。お金で言えば、血清鉄は現金、フェリチンは銀行に預けている貯金にたとえられます。お金が無ければ製品(ここではヘモグロビン)をつくることは出来ません。血清鉄が診断基準に含まれないのは、現金はないが貯蓄は十分、という状態があるためです。フェリチン値の低下は、鉄欠乏性貧血の主要なバイオマーカーとして使用されます。
平均赤血球容積(MCV)と平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)の低下
鉄欠乏性貧血は小球性低色素性貧血の特徴を持つため、これらの値が低下します。
トランスフェリン飽和度(TSAT)の低下
トランスフェリンは鉄を運搬するタンパク質であり、その飽和度が低下している場合、体内の利用可能な鉄が不足していることを示します。
鉄分不足以外の原因を確認するために、一般的な血液検査項目も同時に測定します。
鉄欠乏性貧血の治療法は?
鉄欠乏性貧血は鉄分不足ですから治療は鉄を補うことです。たまに「食事で何とかなりませんか?」と聞かれることもありますが、一旦枯渇してしまった鉄分を食事のみで十分に補充することは困難で(もちろん程度にもよります)、通常、お薬(鉄剤)を使用します。鉄剤は飲み薬と点滴の2種類があり特徴は以下の通りです。
経口鉄剤
鉄分の補充は、原則、飲み薬を使用し、貧血が改善しフェリチンが十分に上昇することを目標とします。しっかりと鉄分を補充するためには半年程度内服していただく場合が多いです。一部の方に鉄剤の副作用の一つとしてむかつきなどの消化器症状が出ることがありますが、現在、複数の鉄剤が利用できますので別のお薬に変更したり飲み方を工夫することで多くの方は最終的に飲むことができるようになります。また、鉄剤を服用すると便が真っ黒になりますが心配は要りません。もちろん、鉄剤を飲む前から便が黒い場合は胃カメラ検査などを受ける必要があります。
静注鉄剤
副作用のため鉄剤をどうしても飲むことができない方や、服用しているのに効果がない方、急速な鉄補充が必要な方などで使用します。最近では高用量の静注鉄剤が利用可能となり治療の選択肢が広がりましたが、注意点もあります。鉄分を直接血管の中に投与するため、本来、体に備わった鉄過剰を防ぐ仕組みが働きません。鉄分不足は良くありませんが鉄過剰も良くありません。また、飲み薬の時のように治療終了の目安としてフェリチンが使用できないため、あらかじめ必要な鉄分の量を計算して投与する必要があります。すべての薬で言えますがアナフィラキシーのような重篤なアレルギー反応にも注意が必要です。点滴部位の皮膚色素沈着リスクもあります。基本的には経口での補充を原則お勧めしています。
鉄欠乏性貧血の再発
鉄欠乏性貧血は鉄分がしっかり補給できれば良くなります。しかし、治療終了後、数か月たった後以降に再発する場合も見受けられます。結局のところ、鉄分収支のバランスなので、入ってくる鉄分の量が出ていく鉄分の量より少なければ鉄分はいずれ枯渇してしまいます。再発した場合は、改めて胃カメラ等の検査や女性であれば婦人科への紹介も検討します。なかなか鉄剤を中止できない方もおられます。また、鉄欠乏性貧血の予防にはバランスの取れた食事も重要です。
鉄欠乏性貧血の予防や再発防止
バランスのとれた食事を心掛ける
鉄欠乏性貧血に限らず、貧血の予防にはバランスの取れた食事が重要です。偏食・減食・欠食を避け、食事は1日3食規則正しく、毎食、主食・主菜・副菜を組み合わせ栄養素をバランスよく摂取することを心掛けましょう。食事中の鉄は魚や肉に含まれる「ヘム鉄」と野菜や穀物等に含まれる「非ヘム鉄」に分けられます。ヘム鉄は非ヘム鉄と比較して吸収が良く、魚や肉の赤身、内臓は鉄含有量も多く吸収率が高いので効果的です。また、鉄製の鍋やフライパンで調理すると、わずかではあるものの鉄が溶け出てくるので使用を検討しても良いでしょう。
サプリメントを利用する
食事から十分な鉄分を摂取することが難しい場合、サプリメントの利用も検討すると良いでしょう。特に、妊娠中や授乳期の女性、鉄分不足が心配な方にはサプリメントが効果的です。鉄分を含むサプリメントは薬局やドラッグストアで手軽に入手できますが、信頼できる品質が確かなものを選ぶようにしましょう。
まとめ
今回は鉄欠乏性貧血を解説しました。鉄欠乏性貧血は早期発見と適切な対処が肝要です。日常生活でのバランスの取れた食事や定期的な健康チェックが、健康な暮らしをサポートする重要な要素です。ぜひ、参考にしてみてください。